12、ちっちゃ可愛いひと

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12、ちっちゃ可愛いひと

 司法書士試験は、筆記試験が7月、口述試験が10月に行われる。難易度は社会保険労務士より高く、合格率も低い。達也も2回目で受かった。だから、さちが司法書士の資格試験を受けると言った時から、大変なのは分かっていた。  さちが言ったことは、全部本当なのだと思う。さちは、達也とお別れする未来を想像をして他の事務所への転職か開業に自分の人生の舵を切れるようにまで思い詰めていたのだ。女性と付き合うのは、相手をよく見て気持ちを探っていかなければダメになる。特にさちのようなタイプは強がる。    達也は、そんな分析までするようになった自分を自分で尊敬した。 黙って立っていれば、それだけで注目を浴びてしまう綺麗な大人の女性が、あんなに子供っぽいところがあると分かったのも嬉しかった。  片想いから始まって、ストーカーまがいの行動の上に今がある。でも、それは特別な何かがあったからだと思う。自分が非モテ男だったから、15も年下の女性が彼女になった。今まで待って良かったと達也は思った。  達也の中では結婚できなかったのがに変換されていた。 あの日以来、2人は電話で直接話すようになった。彼女は1回5分と決めて毎日電話をしてきた。無料の電話で。 いつも「今、良いですか?」と前置きをするところも可愛くて仕方がない。  達也の日常は、仕事と夜のさちの電話。そして、週1のオシカツだ。オシカツも、さちの試験が終わる頃には足を洗おうと思っていた。前ほど楽しく感じない。イッチ達からは、達也の服装が変わって怪しまれている。未だ彼女が出来ない同年代のイッチ達に、どうやってカミングアウトするかが少し悩みの種だった。
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