12、ちっちゃ可愛いひと

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 午後の早い時間に阿部が慌てて達也のデスクに寄ってきた。 「所長、アポなしのご相談者がいらしているんですが……ちょっと厄介な感じがするんですよ。所長ご指名の相談なんです。どうしましょうか?」 「要件は?」 「それが、仰らないんですよ。お断りしましょうか?」 「そうだね。今時は怖いからね……」と達也が言いかけた時、外回りから戻ってきた男性所員が開けたドアの後ろから1人の女が無断で事務所の中に入ってきた。 背が小さい小太りの女だった。歳は若くはない。それなのにメイド服のようなイタい格好をしていた。 達也は、その顔の面影に見覚えがあった。盛った見合い写真の女だ。名前も思い出せない。 その女は、達也を見つけると大きな声で言った。 「あ、先生!お話があってきたんです!」 ……これは、ルール違反だろうと達也は言いたくなった。 仕方ないので、来客用のスペースに案内するように阿部に申し付けた。 一体、どんな話があると言うんだ。お母さんはちゃんと断ってないのか!腹が立ったので、廊下に出て母に電話した。 菊江も達也の連絡を聞いて驚いた。「きちんとお詫びして了承していただいたわよ。間に入った人に文句を言うわ」 達也は母との電話を切ると、嫌々ながら来客用スペースに向かった。
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