12、ちっちゃ可愛いひと

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 達也は、テーブルを挟んで女の対面に座ると冷静に言った。 「申し訳ありません。私は、あなたの名前も覚えておりません。縁談の件でしたら、正式に取り下げさせて頂いたはずです」 「ええ。それは分かっているわ。でも、一度だけでもお顔を拝見したかったの。私の名前は泉麗子よ」 「お話しすることは何もありません。お引き取りください」 麗子はパッと明るい表情になると「やっぱりいいわ。曽我部さん素敵」とニコニコし出した。 「最初の写真はいただけなかったわ。後から来た写真を見て会いたいって思ったのよ。今の曽我部さんは後の写真の方ね。雰囲気が全然違うわ」 その時、湯呑みを二つ載せたお盆を持ったさちがテーブルの横に来た。そして、ガチャンという大きな音を立ててお盆をテーブルの上に置いた。さちは暫く棒立ちになってお茶を睨んでいた。さちの目が座っているので達也は思わず、さちの手を握った。 「大丈夫?」と達也が聞くと「大丈夫です」と勇ましい声が返ってきた。 その後、バン、バンとお茶を二つ置くとお盆を持って来客スペースから出ていった。 達也は、さちがお茶を置いた勢いで中身がこぼれて濡れているテーブルをティッシュで拭きながら麗子に言った。 「私は良い縁が付きましてね。近々結婚するんです」
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