16、大きなハードル

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 今は、いい年をして何も分かっていないのは自分の方だと思うようになった。  そもそも、モテないからと言って自分から『女性に興味がない』というポーズをとっていた所からして大間違いだった。チャンスは、必ずあった筈だ……と頭で記憶を手繰り寄せても、ストーカー行為をするくらい積極的になったのは、さちだけだ。  お見合いできていたら、この前事務所に凸してきた女性が相手でも結婚したのだろうか……それはそれで幸せになれる気がしない。  理屈じゃなくて、好きな女性と特別な関係になりたい……達也の悩みは、出発点が純粋な分拗れていた。 「達ちゃん、いい加減にお付き合いしている方に会わせてくれないかしら?それとも、やっぱり妄想だったの?」 夕飯の時、達也は母親にせっつかれた。 「妄想じゃない!彼女が試験に合格したから、来週にでも家に連れてくるよ。それに、僕はもう彼女のご両親にご挨拶したよ」 「あらま、達ちゃんにしては手際がいいこと。早く結婚しなさい。40になっちゃうわよ」 「結婚は急がない。彼女が可哀想だから。若いんだよ」 「達ちゃんは、私が孫も見ないで死んでもいいのね」 菊江は、顎を引いてテーブルの向かい側に座る若くはない息子を睨んだ。
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