16、大きなハードル

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 次の週の日曜日、達也は母とさちを引き合わせた。母の菊江は、さちを一目見て気に入ったようだった。いそいそとお茶の準備を始めた。さちの手土産は、事前に達也から聞いていた菊江お気に入りの和菓子店で買った羊羹だった。  菊江は、達也が、こんなに若く綺麗な女の子を連れてくるとは思っていなかった。ふと、以前会っているのではないかという気がした。 「さちさんと前にお会いしている気がするんだけど……」 「そうですね。目眩を起こした達也さんを送ってきたことがあります。あの時が2回目のデートだったんです」 「嫌だわ。そんな前からお付き合いしていたのね。達也は何も言ってくれないのよ」 「私も親には余り話しませんでしたよ。だって、先がどうなるか全然分からないじゃないですか。こうやって、お母様にお会いできて、やっと現実だって思えるくらいなんですから……」  歳の離れた冴えない息子を本当に愛していると言わんばかりの言い方をする女の子が菊江には不思議になってしまった。 「達也のどこがいいの?背も低いしオジサンでしょ?」 「背は低くないです。私たち同じ背丈なんです。だから私と達也さんは同じものが見えているんです……それと、オジサンじゃなくて大人です。私の周りには、そういう人は他にいないです。子供ばかり」  菊江は、自分の若い頃を思い出した。結婚前は達也の父親が特別に素敵で大人に見えたのだ。そんなものだった。この若い女の子の勘違いが続いているうちに達也の尻を叩いて結婚を急かそうと思った。そして、さちの隣で緊張しきって黙っている息子を軽く睨んだ。
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