19、急転直下

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 さちは経過観察で入院することになってしまった。 医師の説明によると妊娠反応はあるが、妊娠のごく初期で胎児の心音が確認できない。さちは転けた時、腰を強かに打っているので様子見が必要とのことだった。  達也が病室に移ったさちに会った時、さちは「昨日の夜、妊娠検査薬で確認したの。今晩言おうと思っていたんだよ」と言っていた。 「ダメだな。僕が失敗しちゃったんだ」と達也が言ったら、さちが怒った。 「失敗じゃないよ!これが縁なんだよ!私と達也さんは私たちの子供の親になる縁なんだよ。だから、後のことはお任せする。私、しばらく動いちゃいけないから」 「後のことって?」 「私たちの親に説明して、なるべく早く結婚するの。私の母は電話で連絡したから直ぐ来るわよ」  その日は達也にとって、本当にバツの悪いテンヤワンワとしか言えない日になった。トドメは予約したレストランからキャンセル料まで請求された。  結婚した奴は、どんな手順で結婚まで辿り着いたのだろうと考えていた日から1年も経たず自分が父親になっている……現実は、こんなものなのかも知れないなと謎が解けた気分だった。  事務所の所員には太田が体調を崩してしばらく休むとだけ説明した。こっちはこっちでバツが悪い。
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