19、急転直下

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 さちが妊娠したことを知った親たちは、もう結婚式の話を勝手に進め出した。達也の仕事で式はしないと言うことはあり得ない。それこそ「ご縁で成り立っている仕事」だからだ。 5日後、胎児の心音が確認された。その次の日に「婚姻届」を届けを提出した。  達也の母が「子供が大きくなったら、どうやって子供に説明するのよ!1日でも早く籍を入れなさい!」とイキリ立って急かしたからそうなった。菊江は内心、子供ができてくれて良かったと思っていた。意気地無しの達也がやってくれた!と息子を褒めてやりたい気分だった。  退院して次の週には、さちも事務所に復帰した。 そこで、入籍をした報告と近々式を上げる報告を達也が朝礼の時に所員達に報告した。さちは、後1ヶ月で退所する。  やっと2人きりになれた時に達也は、さちに訊いた。 「こんなドタバタで結婚していいの?」 「もちろん。異論はないわよ。私はお母さんになるんだもの。いつか仕事にも復帰するわよ。でも、私は子供が沢山いる家庭が欲しい。私も達也さんも一人っ子でしょ?少なくとも3人。もっと居てもいいわ。私もあなたも稼げるでしょ?……つまりは、達也さんのお母さんと同じ道を歩くの。曽我部事務所を立ち上げたのはご両親でしょ?」 「知ってたの?」 「うん。古い資料に曽我部菊江って社労士のサインがいっぱいあった。ご両親2人で始めた事務所だったんだよね。私も達也さんの公私共にのパートナーになりたいの。なれるでしょ?司法書士の資格も取ったし……お義母(かあ)様と同じでしょ」 「僕の両親は、僕を置いて仕事ばかりしていたよ。仲は凄く良かった。父が死んで母は仕事も止めた」 「私はね、今年25歳。30代半ばまでは家庭を優先する。それでも事務所の仕事は裏方で支える。いつでも復帰できるように完全には離れない。私はね、欲張りなの。賑やかな家庭も仕事も両方取るの。もちろん、達也さんも一緒にするのよ。協力じゃないのよ。一緒に。  私の計画が水泡に帰すかどうかはパートナーにかかっているんだからね」 そう言ったさちは、同じ目線の達也をしっかりと見つめていた。
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