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2、盗み聞き
達也の事務所は、JR渋谷駅の徒歩圏内にある。
社会保険労務士は雇われ身分では儲からない。優秀な社労士は、いずれ独立する。男性は大抵そうだ。30人いる職場の仲間でも古参は事務を担っている人ばかりだ。若い社労士は開業に向けて此処に修行に来ている。
太田さちは入所して3年目に入ろうとしているところだ。達也は彼女から仕事の相談はされる。それ以外の話はした事がない。
昼休みになると男性所員は外に食事に出る。達也は、母親が作ったママ弁だ。いつまでも母からしたら子供なのかもしれないが、少し恥ずかしい弁当を持たせてくれる。キャラ弁だったりすることもある。見られたらイヤなのでデスクの衝立の影に隠れて食べている。
女性所員達の半分が弁当持参だ。
さちはいつも先輩事務員達と衝立の直ぐ向こうで弁当を広げていた。
盗み聞きではないが、達也には話がよく聞こえてしまう。事務員の古株、阿部が弁当組の仕切りをしているらしい。
阿部が、さちの話に突っ込んでいる。
「太田さん、明日でしょ。同窓会。着ていくものは決まった?同窓会って結構出会いの場なのよね」
話を振られたさちは、しばらく黙って生真面目に答えた。
「出会いも何も、子供の頃を知っている同級生ですよ」
「だから、意外感があるんだってば。大人になって改めて見直すみたいな感じかな。同窓会がきっかけでお付き合いするって結構あるのよ」
「そんなものですかね。実は会いたい人はいます。だから行きます」
「それって男性でしょ?」
「違います。男の子です。同級生の男の子」
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