3、同窓会の夜

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3、同窓会の夜

  同窓会の日は、朝から雨だった。 同窓会は夜7時から品川の高輪ゲートウェイホテルで開催される。さちの実家は大田区の下町だ。家から近い高輪のホテルが選ばれたのだろうと達也は勝手に想像した。  達也は夕方から何時ものスーツを着て、一応変装のつもりでマスクをしてロビーのカフェでさちが来るのを張っていた。 人が多い。だから、見ているだけなら目立たない。見つからない。見るだけだ。達也は自分で自分の少し後ろ暗い行動の言い訳を心の中でしていた。 一際目立つ女性がロビーに現れた。 背が高い。いつもより高い。10センチヒールを履いている。ほっそりとした身体に、ハイネックの黒のタイトなワンピース。装飾はチュールの黒のスカーフを止めている大振りのスカーフ留めだけだ。髪もいつもは括っているのに自然のままに下ろしていた。  その雰囲気は、やっぱり芸能人を思わせる。  ああ……高嶺の花だなぁと達也はつくづく思い知った。 さちは、達也に気がつきもせずエレベーターに向かう。その辺りで同年代の女性達とグループになった。  久しぶりの再会なのだろう。さちは、事務所で見せるのとは全く違う表情をしていた。若さを余計に感じる。達也は居心地の悪さを感じた。 でも、無事に1帰るところを見届けるまで、ここで待っていようと決めていた。
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