3、同窓会の夜

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 同窓会が始まって1時間経つか経たないかした時、エレベーターから、さちが飛び出してきた。走るのには不向きなハイヒールで小走りに走っていた。その姿を見た達也は反射的に立ち上がった。 逃げるようにホテルを出て、さちはタクシー乗り場に向かう。その後ろを追いかけて、達也は、さちの腕を掴んだ。さちは驚いて「きゃっ」と声を上げた。  さちは、達也の方を振り向いてポカンとした表情をした。 「なぜ、あなたが今此処に?」とその表情が言っていた。 盗み聞きも、待ち伏せも後ろ暗いことはたくさんした。だから、達也は早口で言い訳をした。 「ストーカーじゃないから。心配で見にきただけ。ストーカーではない。管理責任を行使しただけ」 実際、言い訳だから早口で焦った感じになってしまった。さちと視線も合わせられなかった達也は目を逸らしていた。次の瞬間、さちは、吹き出すと大笑いをした。 バカにされちゃったか……と思って達也は、真剣な顔をした。何かを言わなくてはいけない。でも、その言葉が見つからない。 さちは姿勢を正して達也の方を見た。10センチヒールの威力は強烈で、達也は上から目線で怒られている気がした。 「何が心配なんですか?」とさちは、達也を見下ろして言った。その表情は、ニコニコと笑っている15歳年下の可愛い子だった。 それは、達也が初めて見た「太田さち」という女の子の貌だった。
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