猫魚は海に帰る

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 自宅に着くと、取りあえず魚ということにして、お風呂場に向かった。洗面器に水を溜めると、袋から猫魚を移してやる。少しだけ広い場所に移ったからか、にゃーと言う声も満足そうだった。器用に前足を掻きながら尾ひれを動かし、水面を泳いでいる。  その異様な光景を前に、バクバク打つ心臓の鼓動は、走ってきたせいだけではないように思えた。  飼うにあたり、餌や環境をどうするかという問題があった。猫の飼育方法というよりも、魚の飼育方法の方が当てはまるのかもしれない。  ネットで調べても当然というべきか、猫魚の情報などはどこにも存在しなかった。  仕方なく僕は、SNSの力に頼ることにした。ネタだとされると分かっていても、頼みの綱はそこにしかないからだ。  早速僕は魚猫を拾った旨をSNSに投稿する。何年も更新していない情報収集用のアカウント。反応があるとは思えない。それでも写真と一緒に、こんな生き物を拾ったけれど、どうすれば良いのか分からないと打つ。  やっぱりというべきか、ネタだろと言われるか、育てられないものを拾ってくるなんてとの批判の声が多かった。当然という結果だった。中には猫率高そうだから猫の餌でもあげてみればという声があった。  どちらにしろ餌は大事だ。一匹にしておくのは心配でもあるけれど、僕はスーパーへと向かうことにした。  猫の餌とはいっても、種類はいくつもあった。どれが良いのか見当もつかないだけに、出費は相当なものになりそうだった。一応、魚の餌も何種類か買っておく。僕のなけなしの貯金が減ってしまったのは災難だけど、拾ったからには当然の責任だ。  家に戻ると早速、僕は狭い風呂場へ直行した。猫魚は寝ていたのか、前足を洗面器の縁にかけて、耳をピクピクさせながら眠たげな目を僕に向けている。
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