猫魚は海に帰る

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 それから月日が流れ、梅雨から夏へと変わっていた。大学は夏休みに入り、僕は用事が無い限りは出来るだけ猫魚の傍にいた。猫魚という名前はそろそろやめて、何か良い名前はないかと考えていた。SNSで募るのも良いかもしれない。そうだ、動画配信とかどうだろうか。そんなことを考えながら猫魚を撫でていた。  長閑な昼下がり。唐突に猫魚が顔を上げた。目線の先は玄関。ピンポーンと来客を告げる音がする。  荷物だろうかと、僕は立ち上がって玄関に向かう。  ドアを開けると見知らぬ男が立っていた。白いシャツをだらしなく着崩し、うさんくさそうな笑みを浮かべる様子からして明らかに厄介そうな人種だった。 「猫魚さんですよね」  質問と同時に手にしていたスマホが、こちらに向けられる。  あからさまに、撮られている。血の気が引き、心臓が痛いぐらいに鳴り出す。 「違います」  ドアを閉めようとドアノブを引く。 「まぁまぁ、そんなこと言わずに。ちょっとぐらい見せてくださいよぉ」  男がドアに足を入れる。 「人違いです。警察を呼びますよ」 「そんなはずないでしょ。あ、嘘吐いてたんだ? それって詐欺なんじゃないの」  明らかな挑発だったが、僕は怒りよりも恐怖と不安が勝っていた。 「知りませんから。本当に警察呼びますよ」  大きめの声で言うと、やっと男が溜息交じりに引き下がった。  すかさず僕は玄関のドアを閉める。鍵を閉め、チェーンもかける。  震える足で部屋に戻り、スマホを手に取る。  何故、この家の住所が何故分かったのだろうか。ボロアパートということもあって、バイト先の仲間も大学の友達にも言ったことはないはずだ。唯一知っているのは、バイト先の店長と親ぐらいのものだ。そこから漏れるのはまずないだろう。猫魚の話はSNS以外では話していないのだから。
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