猫魚は海に帰る

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 ネットで猫魚の住所と調べてみる。そこで僕のSNSの投稿から場所が分かったと言っている人を見つける。僕は慌ててSNSを削除する。指先が冷たくなり、震えているのが自分でも分かった。  よく、有名な動画配信者が凸されるという話は聞いていたが、まさか自分がその一人になるなんて思ってもみない。  どうしよう、と思っていると、再びインターホンが鳴る。肩がビクッと跳ねる。視線を玄関に向けるも、立ち上がる勇気はない。  二度三度鳴っても無視ししていると、諦めたのか静かになる。外から数人の話し声が聞こえ、遠ざかっていく。  猫魚を見る。甲高い音が苦手なのか、猫魚は耳を外側に逸らして、震えていた。  それ以降、毎日のように来客が続いた。その度に僕は布団の中で震え、猫魚も同じように怯えていた。  管理会社からも連絡があった。部屋の前でたむろしたり、インターホンの頻度が異常だというものだった。何かトラブルがあるのであれば、強制退去も視野に入れたいという通達すらあった。  もう限界だった。猫魚もストレスからか、毛の一部抜けてしまっている。尾びれの鱗も剥がれていた。  このままで良いはずがない。僕は魚猫をバケツに移すと、深夜に部屋を出た。さすがに誰もおらず、静まり返っている。湿気の多い夏の夜風を浴びながら、僕は海へと向かう。  車通りも少ない夜道は薄暗く、心許ない気持ちにさせられる。それでもこうするしかないのだと、自分を奮い立たせてひたすら足を動かした。  海に着くと暗さはさらに濃くなり、不気味さも増す。こんな夜中に海に来る人間などいるはずもなく、強いて言えば肝試しをする人ぐらいだろう。そんな人達すら、今夜は見当たらない。  唯一の光は、月明かりと遠い街灯のみ。生ぬるい潮風と香りが近づく度に濃度を増す。僕は波打ち際まで進むと、バケツを置いた。
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