とりとめのない雨と捧げ物

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 それからしばらくして手当を受けた私が意識を取り戻した時、あれほどこの谷にあふれていた雨の気配をちっとも感じなくなっていた。雨季が終わったのだ。  村人から私の瞳の1つと使徒の持つ瞳の1つ、それからあの使徒が捧げられたと聞いた。だから今年の巫子も供物も事足りた。そうして私のもう1つの瞳が手渡された。それは既に石のように硬く、いずれ私に雨の訪れを知らせるのだろう。これからは私が使徒となる。他に行くところもない。雨の上がった空を見上げて次の雨の訪れを待つ。前の使徒と違って私は雨が降っても雨を見上げていられるだろう。なんとはなしにそう思う。  あの使徒の言った通り、杯を干すのをやめれば次第に様々なことが感じられるようになってきた。空腹や、喉の乾き、それから様々な感情。そうして私は何故、ガソであることを止めたのかと考えたけれど、答えは浮かばなかった。それはきっと、最後に飲んだ杯と一緒に失われたのかもしれない。  これまでの記憶は戻らなかった。私の本当の名前も思い出せなかった。けれど、私はここで雨のない冬を過ごし、そして次の雨季に次のガソを迎える。傍らのリュートと蕭とともに。 Fin
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