とりとめのない雨と捧げ物

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 生活は平穏だった。  食事は使徒が作った。使徒は目が見えないが、狭い神殿の中のことだから支障はないという。味は薄めだと感じるけれど、不足はない。少しだけ物足りないのは、肉類が入っていないことだった。  これらの野菜や穀物は神殿内で作られている。その日も優しい味のする(スープ)を飲む。春の雨のように細い麺が入り、それはちゅるりと口の中で弾けた。 「ガソは雨が好き?」  そう問われてふと、雨季と言っても普通は晴れ間もあるものなのに、ここに来てからずっと雨が降っていることに気がついた。 「……わかりません。ここは雨ばかりですね」 「うん。この谷はこの国の一番底だ。雲も集まりやすいから、いつも雨が降っている」 「そうなんですね」 「そんなわけで、ここではできることが限られていてね。何かしたいことがあればなるべく要望に沿うけれど」  使徒は肩をすくめた。 「やりたいこと……リュートはありますか?」  心の底で、そういえば楽器を弾いたことがあると感じた。リュートのしっとりとした音はこの雨の音にも合うのではないかと思う。 「手配しておこう」 「使徒様は楽器は弾かれませんか?」 「私?」  使徒は少し考えるように頭をかしげた。 「……そういえば昔、蕭を吹いたことがある気がするな。今も吹けるかはわからないが、あわせて手配しよう」
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