とりとめのない雨と捧げ物

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 そうして2日ほどのあと、楽器が届いた。つややかにニスが塗られたリュートと彫刻が入れられた蕭。  弾いてみれば、どこか懐かしい音が波紋のように広がっていく。傍らで蕭の澄んだ音が空気を震わせる。どこか硬質なリュートの音と異なり力強くも柔らかく聞こえるその音は、雨の音に混じっていく。 「ふむ。吹けはするようだ」   遠くを思い出すような声がする。 「使徒様はどれほどここにいらっしゃるのですか?」 「ここに? そうだな。もう10年くらいになるだろうか」  ここに、10年。それは長いような、短いような時間。私がここにきてもう半月ほどがたつ。けれども私の記憶はどうにもあやふやで、こう代わり映えのない景色では、ここに来たばかりのような気もするしずっと長くいるような気もする。  けれども雨が上がったら。 「寂しくはありませんか」  ここには巫子しか来ることはない。雨季と同じほどには長い乾季ではただ、一人だけだ。 「私が選んだことだからね。それにもう慣れてしまった、きっと」  泡くほほえみを浮かべる穏やかな使徒の口元には、何かが押し込められていた。 「ガソ。もし君がずっとここにいるとしたら、それは嫌かい」 「私は……わかりません」  私がここにいるのは雨が上がるまでだ。  でも、乾季にはここには誰もない。使徒も含めて誰もいないはずなのだ。谷の入口まで行けば村人が見張っている。使徒が紙に必要なものを書いて決まった場所に置けば、翌日用意される。そしてそれは乾季の間も継続される。けれども使徒は村人とは話してはいけない決まりになっている。  雨の音もなく一人で半年ほどを過ごす。それはきっと、眠っているような時間ではないか。
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