裁神神殿

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裁神神殿

ルディがまたどこからか調達してきた馬車に乗り、共にやって来たのは懐かしい場所。 前回のループでは、邪神の隠れ家と呼んでいた場所だ。 「でも前はもっと鬱蒼とした森の中じゃなかったかしら」 こんな風に神殿の門が露出しているだなんて思わなかった。 何たって隠し神殿だもの。外からは分からないように隠してあったのだ。 それを見つけたアンジュたちは……やはりシナリオか何かのチートを使っていたのだろう。 私もここを見つけたのは、公爵家だけが持つ情報筋から何とか手に入れたからである。 「もう隠す必要はないからな」 そう、ルディが答える。邪神として、忌避されることもない。 裁神さまの力は、確かにこの世界で効力を発揮しているのだ。 「改めて見ると、やっぱり素敵なところね」 邪神の隠し神殿と聞くと、恐ろしげなものを想像しがちだが、ここはそんなこともなく、神聖で静謐な空間が広がっているのだ。 「やっと帰って来られたわ」 「そうだね。レティシエラ。2人っきりでここで幸せに暮らそう」 「ルディったら……2人っきりじゃないでしょ?裁神さまだって、ほかの信者たちもいるのに」 武神さまは神だったが、ほかにも……。 「邪神の隠れ家と言うのは、時折邪神信奉者が訪れることはあったよ。でもその邪神が司法神だと知ると、みな想像と違ったと去っていく」 邪神信奉者……単純に考えれば、破壊とか、世界侵略とか、犯罪とか、そう言ったことを願うのだろうか。 しかし司法神ならば、それらに関して公正な判決を下すことが仕事なのである。 因みに破壊に関してはルディの管轄だが、いたずらにそうさせないために、創世神はルディにひとの心を根付かせたのだ。 何より裁神さまを慕うルディが、司法神を讃えないものたちを相手にするとは思えない。 「ここに、司法神を拠り所にして居着いたのは……レティシエラだけだよ」 「……それは……」 不条理だらけの世界で、前世に司法と言う存在を知っていた私は、最後の頼みの綱だと思ったのだ。 私を悪役令嬢ではないとしてくれたのは、ルディや、ほかの信者たち、それから裁神さまである。 あれ……でも。 「なら、前のループで裁神さまに祈りを捧げていたのは一体……」 「祈りじゃない」 祈りじゃ……ない……? 私がお祈りをしている時、ルディや彼らも共にお祈りを捧げていると思っていた。しかしお祈りを捧げている時、私は目を閉じている。彼らは、ルディたちは、その時何をしていたのだろうか……? 「あれは……眷属としての忠義の礼だ」 つまりは、そう言うことだったのだ。 「彼らも……ルディと同じなの?」 「同じと言っては語弊がある。あれらは同じく裁神に跪くが、完全な神だ。女神が地上で偉ぶっていようが……裁判を司る神がいなければ、困る神だっている。例えば……冥府の神ユスティー」 うーん……前世の知識的に言えば、ひとの生前の罪をはかり、刑罰を与えるから……よね。 思えばそこら辺の知識すら、今までこの世界では触れて来なかった。 「女神は司法神を邪神とした以上、同じくひとを裁く性質のある冥府の裁判の話を出されては困る」 やはりこの世界の冥府も、単にひとが死んだら下る場所じゃない。あそこにも、裁判がある。 それが世界で広く知られれば、万が一邪神を司法神だと知ったものが、邪神=冥府の神とみなしては困るだろう。実際は別々の神なのだが。 「さ、レティシエラ、入って」 ルディが私を招けば、神殿の本殿の入り口で出迎えるものたちがいる。 前回は同じく信者だと思っていたが、そうではない。その黒いローブのような服は、まるで法衣にも見える。顔は面で隠してはいるが、今ならば、彼らがひとならざるものだと分かる。 裁神さまが力を取り戻したように、彼らも女神一強の力から解放されたのね。 そしてその中には……。 「武神さま」 やっぱりあなたもいらっしゃったのね。 「レティシエラ、彼らは裁神さまの眷属だから……ここにいるが、あまり目移りされると困る」 め、目移り!?そんなつもりじゃなかったのだけど。しかも武神さまがその言葉に吹いていた。 「あまり執着し過ぎて、お嬢さんから訴えられたら、負けるぞ」 裁神さまの公正な判決の下……と言うことだろうか。 「……っ」 ルディが悔しそうな表情を武神さまに向ける。何だかかわいく見えてきちゃったのだけど。それに……放っておけないような感じも……するのよね……? 「大丈夫よ。トイレやお風呂はひとりにしてもらえれば」 「トイレは……分かったが、風呂もか」 何でそこで躓くのよ。 「風呂にまでついてくるのは、裁神さまに訴えるまでもなく、殿方として失格だ」 その時、面の向こうから女性の声が響く。彼女は……前回は女性だったのだから、女神なのよね。尤も、世界を意のままに狂わせた女神とは違う、司法神の眷属神だ。 そして私の前で面を取った彼女は、闇色の髪に見覚えのある金色の瞳をしていた。 「良いな」 どこか凄みのある彼女の声に、ルディはびくんと肩を震わせると、小さく『分かった』と答えた。
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