襲来

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襲来

神殿の朝と言うのは、どこもお掃除から始まるだろうか。 共にいるのは神々だから、その手腕は超常的なのだけど……。 人間の私の分も残してくれるから、ありがたいわね。 「次はこちらを」 「分かった」 そして戻れば、ルディが眷属神から何かを手渡されている。 それはとても古びた木簡のように思えるが。ルディがそれを受け取れば、すかさず木簡が輝き、文字がくっきり浮かび上がり、木簡の色も当時のもののように蘇る。ルディのもうひとつの力だ……。 私に気が付いたルディがこちらを見る。 「言っておくが、こう言うのは……裁神さまのものだから、やっているだけだ」 ルディは裁神さまに恩がある以上に、裁神さまが本当に好きなのだと分かる。 「ここには、裁神さまが記録してきた裁判やら判決やらの資料が大量にある」 「朽ち果てぬように神の力を込めてはいるが、それでも地上のもので作れば、このように劣化もしてしまう。通常は書き写し保管をするところ、これがあれば瞬時に復元できるのでな」 「だから1000年前の記録すら、霞んでいない」 ルディはここで、ずっと裁神さまの大切な記録を守って来たのね……。 「できれば冥府にも手伝いに来て欲しいところだが。あちらにも復元が必要なものは多いのでな」 「俺は半身がひとなんだよ。そんなところに下ったら肉体を失うだろうがっ!」 言われてみればそうである。あら……?でも待って。彼女ってもしかして……冥府の神さまなのかしら。 「以前はそれもよかろうと思っていたが……。今は違う」 彼女は私の方を向くとそっと微笑んでくれた。 「当たり前だ」 そう言うとルディは次の木簡を手に取り、復元作業を再開する。 「あの……」 その傍ら、気になったことを彼女に聞いてみたくなったのだ。 「冥府にも閻魔さま……いや、裁判を司る神がいるんですよね」 「あぁ、もちろんだ。私がそうだがな」 まさに、彼女が……。 「レティシエラ、冥府ではその司法神が最高権力者だ。つまりこれが冥界で一番偉い神ユスティーだ」 「これとは失礼な」 彼女がクスクスと微笑むが、その傍ら私は驚愕していた。 この世界の閻魔さまのような立場の神が、まさかの彼女だったなんて……! 「女神は私に対抗意識でも持っていたのかもな」 「同じ女神として……ですか?」 「そうだな……しかも私は冥府の最高神。裁神さまを引き入れようとしたのも私への対抗策か。冥府の神であることを蔑みながらも、彼女は一界を預かる私を羨んだのだろう」 何と言うか……今考えたら色々と残念な女神である。 「ほんと迷惑すぎんだろ」 「それももう暫しの辛抱だ」 それは一体……そう思った時だった。 外から何やら騒がしい声が聴こえたと思えば、武神さまが現れた。 「例のヒロインと元神が押し掛けて来たようだ。武器は持ってねぇからな。招かれるための資格は得たらしい」 アンジュとグイーダが……!? 「でも、招かれるための資格って……」 「裁神さまの赦しなく武器やその類いのものを持ち込まないこと。それさえ守れば、ここはどんな人間にも開かれた場所だ」 つまり、かつてここに、邪神の力を期待して乗り込んで来たやからも、武器を持ち込まなかったものならば、ここに来られたってことね。 そして、アンジュたちも……。 「どうする?お嬢さんや、裁神さまを邪神と呼び、出せと迫っているが」 今までならば、決してかなわないヒロイン・アンジュのチートに、諦めていただろうか。しかし、今は違うから。 それに、ルディたちもいるのだ。 「行きます」 迷いなく答えれば、ルディもこくんと頷いてくれる。 「一緒に行こう」 私はルディと共に、アンジュたちが騒いでいる、本殿の外へと繰り出した。 「出たわね、レティシエラ!おかしいと思っていたのよ。みんなの好感度が全部リセットされているし、イベントは全然起こらないし……あまつさえ、私、王太子殿下の進言で退学させられちゃったのよ!」 そりゃそうだ。アンジュのチートが効いていた時ならともかく、そうではないのなら、単なる不敬な行為。 いくら学園が身分不問とあっても、アンジュとグイーダの言動は酷すぎたのだろう。 もしくは……エドガー王太子たちにアタックするために、私を悪役だの何だの言って、エドガー王太子の怒りを買ったか……それが一番あり得そうね。 「うう……何でぼくまで」 グイーダも俯くが……そもそもグイーダは神でなくなったからと言って、無理矢理学生として潜り込んだんじゃない。 「ぼくが神だったら……アンジュの聖魔法を目覚めさせて、レティシエラも邪神の手下のお前も、邪神と一緒にまるごと滅ぼしてやったのに!」 グイーダがそう吠えれば、裁神さまを慕うルディが眉をひそめる。 「お前のようなただの人間が、裁神さまに手を出せると思うな!もちろんレティシエラにもだ」 そしてルディが怒気をあらわにすれば、グイーダが言い返す。 「うるさいうるさいうるさい!!ぼくは神だ!ぼくを神に戻せ!お前がぼくの本体を壊さなければ、ぼくは今頃……っ」 苦しげに告げるグイーダに、ルディも頑として退かない様子である。しかしその時、第三者の声が響く。 「そうか……お前はそんなに神に戻りたいのか」 そう告げたお方に、さすがのルディも退かざるを得ないようだった。
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