神話論

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神話論

――――神話論の講義が始まった。 「ここは女神以外の様々な神の神話を学ぶ講義だ。今日はオリエンテーションだから、君たちが知りたい神話を授けよう」 え……っ、それはかなりレアな機会なのでは!?何せ本物の神から真実を学べるのである。 それもグイーダやすっかり信用できなくなった女神ではない。彼は正義と公正を司る神だからこそ、嘘偽りのない事実を知れるのではなかろうか。 彼が講師としてここにいるのはやはり謎だが、しかしチャンスはチャンスである。 「早速希望を聞こうか」 彼が私を見る。 「あの、私は創世神の話を聞きたいです」 何せこの世界の神話のほとんどが女神に関するもの。そして細々とほかの神々の伝説が残る。 邪神さまもいるにはいるが、それを詳しく知ったのは、邪神神殿に赴いた回だけだ。 「なら、俺も」 ルディも……?もしかして私に合わせてくれているのだろうか……? 「ちょっと待ってくれ……!」 しかしそこで声をあらげたのはラファエルだ。 「この国……いや、世界の主神は女神リュボーフィアさまである!だからこそ、ほかの矮小な神などどうでもいい!我々は主神である女神さまの神話を尊ぶべきだ!」 いや、だから……っ!ほんっと話の分からない男ね!?こんなのが攻略対象とか……絶対に面倒くさいキャラよ。もしかしたらループで歪んだだけかもしれないけど。 「最初に告げたはずだ。ここは女神以外の神話を探究する講義であると」 その通りよね。 むしろ女神の神話を学ばされるなら、ここに来てないわよ。そんなに女神女神言うなら、神殿にでも籠ってればいいじゃない。 「そんなこと、認められない!そもそも、創世神だなんてどうでもいい!」 ど、どうでもいいって……。何てことを言うのよ。 女神はヒロインと元神のために世界をループさせ、私をどうあっても破滅に貶めた。 そんな私を、全てをリセットしてやり直させてくれたのは……確実に創世神だ。 そもそも創世神よ……?創世神をむげにするなんて……していいのかしら。 「女神リュボーフィアさまこそが至高の存在である!!」 ラファエルは高らかにそう告げた。 しかしその瞬間、私は気が付いた。彼は今まであくまでも公正に取り図ろうとしていたが、今の彼の表情は違う。 「何者も、創世神を貶めることは許されない。この世の全ては創世神が産み出したもの。神も、女神リュボーフィアも、地上の全て……そして人間も」 どうしてかそれだけは、絶対に曲がることのない司法神ユーリスの根源にある言葉のように思えてしまう。 そしてそれが絶対の判決であるように、ラファエルは勢いを失くし、呆然としながら椅子に腰掛けた。 「そんな……うそだ……今までは……ぼくが、女神リュボーフィアさまの素晴らしさを……説いて……あれ……今までって……いつだ……?」 それも刷り込みと言うやつだろうか。 彼は今までのループで、この授業をほかの神々の神話ではなく女神の素晴らしさを説く授業に無理矢理変えさせていたのだろうか。 むしろ今回もそれが目的だった。 しかし驚くほどに上手く行っていた彼らの女神チートはもう使えない。 そして教壇に立つのは女神と対立する神ほんにんである。 まぁラファエルはループ前の記憶はないはずだし、自分の発言の意味を理解はできないだろうけど。 「さて、では創世神の話をしようか」 彼の口から語られる話の方が、よほど興味深い。思えばこんな風に感じたのは……そうね。邪神さまの神殿で、裁神ユーリスさまの神話を聞いて以来である。 「この世界の全てを創造した創世神は、まず海の上に地上を造り、森を造り、そして世界を統治する神々を造った」 あれ……女神リュボーフィアを最初に造ったんじゃないのね。神殿では女神リュボーフィアが最初に生まれた神だと遠い昔に習ったけれど。 思えば創世神がいるのだから、最初に生まれたのはそもそも創世神のはずである。創世神に生まれると言う概念が当てはまるのかどうかは不明だが。 「そして統治する神々を造った創世神は地上にさまざまな生き物を授けた。人間や魔物もそのひとかけらである」 うーむ……この時点では女神は主神として君臨していないのね……? 「やがて、人間たちは愛を司る女神リュボーフィアを崇め、文明を発展させることに成功した」 つまり女神が人間たちに崇められ始めたのね。 だけど……あれ、女神って光と生命の女神ではなかったかしら……? 「しかしある時創世神は新たな神の誕生を予期した。その神は破壊と再生を司る神」 破壊と……再生……? 「人間だけではなく世界すら破壊してしまえる力を持つ神の力は脅威となるだろう。だからこそ、創世神は破壊の神に、弱き立場である人の心を授けることとした」 弱き立場……確かに魔物からしてみても、大抵の人間の方が弱い立場よね。魔物が人間の居住域に入れば武器や魔法で戦っているとはいえ、大挙して押し寄せればほとんどの人々はなす術がない。 「創世神は人間の巫女に神として生まれる命を授け、そして破壊と再生を司る神が生まれた」 半人半神の神……生き神と呼ばれる存在だ。 「創世神が自ら子として生ませたことで、半人半神の生き神は、創世神の子と呼ばれた」 創世神の……。 「それなら、もっと知られていてもいいはずなのに……」 私たちは創世神の子のことを知らない。 「創世神の子は、人の心を持つがゆえに、悲しみ、苦しみ、その怒りを天に向けた。その力を神界に向けて放ったのだ」 は……はい……っ!?確かに世界を破壊できるとは聞いたけど……神界まで……っ。 「神々は怒り、創世神の子は裁判にかけられた」 「……裁判って……」 裁判長は目の前にいる彼……よね。 「多くの神々は創世神の子の消滅を望んだ」 「だからって、理由があったはずでしょう?」 怒りを天に向けなければいけなかった、彼が地上で感じ取ってきたものが……。 「私は判決を下した。罰として1000年神界に渡ることを禁じ、地上のために尽くせよと」 1000年……とてつもなく長い時間。 「今も創世神の子は地上にいるんですか……?」 「そうだ」 そっか……地上に。 本当に、ずっと見守ってくれていたのだ。こんな壊れかけた世界にですら。 リセットまでして、戻してくれた。
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