噂の黒マント ~街角の隠者~

3/14
前へ
/14ページ
次へ
「ハァ……」  今日だって夜遅くまでのサービス残業を済ませた後、独り深いため息を吐きながら、繁華街をとぼとぼと駅へ向かっている。  夜更けとはいえ、街の(あかり)で思うほど暗くはなく、陽気な酔っ払い達と行き交うその通りは賑やかであるが、その賑やかさがむしろ孤独感をいっそう引き立ててくれる……ああ、ちなみにわたしは一人暮らしな上、この前、カレシとも別れたのでものすごく孤独でもある。 「ハァ……」  わたしはもう一度深いため息を吐くと、なんとなく頭上を見上げてみる……そこには街のシンボルである例の時計塔が建っており、ぼんやりと光る文字盤へと自然に目が吸い寄せられた。 「もう十一時半かあ……」  時刻はすでに終電時間へ迫っている。下手をすればタクシーで帰ることとなってまた無駄な出費だ……。  だが、わたしがそんな俗的なことをなんとなく考えていた時のこと。 「……!?」  わたしの目は、時計塔の天辺にありえないものを捉えた。  尖塔のような尖った屋根から突き出た避雷針のその突端……そこに、黒い人影のようなものが立っていたのである。 「人……?」  わたしは怪訝に思いながら目を凝らして思わずそれをまじまじと見つめる。  ……いや、人影じゃない。蒼白い月明かりと下からの照明に映し出されたそれは、影ではなく、影のように(・・・・・)漆黒の衣装を纏った人間だったのだ。  どうやらフードをかぶっているらしく、顔は衣服同様、真っ黒になっていてよくわからないが、フード付きのローブみたいなものなのか? マントのようにその長い裾を夜風に翻している……。  影の如く漆黒の色をしたマント……そこまで認識した時、ようやくわたしの中で〝黒マント〟とその怪人物が繋がった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加