噂の黒マント ~街角の隠者~

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「……っ!」  と、その瞬間。その黒い怪人がわたしの方を見下した…ような気がしたのだが、息を飲む刹那の内にも、それは煙のように夜の闇の中へと溶けて消える。 「き、消えた……も、もしかして幽霊!?」  一瞬にして消えるなんて、人間にできるような芸当ではない……いや、それ以前にあんな場所に立っていること自体非常識だ。  あれが本当に〝黒マント〟なのかどうかは知らないが、そんなこの世ならざる存在だと思うと、急に背筋に冷たいものを感じはじめる……ていうか、〝黒マント〟って、そんな幽霊的な怪異だったのか? いや、むしろ妖怪!? 「き、気のせいだ……きっと疲れてるのね……」  一度(ひとたび)、そんな考えに捉えられると恐ろしい妄想がどんどんと膨らんでいってしまい、わたしはふるふると頭を横に振ると、今見たものは幻覚だったのだと自分に言い聞かせようとする。 「……気のせいだ……そう。わたしはブラック企業のせいで幻まで視るようになってしまったんだ……」  無理矢理納得させるため、呪文の如くそう唱えながら、わたしは血の気の失せた顔でふらふらとまた駅を目指し進んでゆく……。 「そこを行くお嬢さん、ずいぶん心が疲れているようだね」  だが、そんなところへ、思いがけず声をかけてくる者があった。  焦点の合わぬ眼でずっと下を向いていたので気づかなかったが、声の聞こえた脇の方へ視線を向けると、表通りから入った薄暗い裏路地に、小さな机を置いて初老の男性が腰掛けている……白髪頭の厳しい顔をした和装の老人で、「占い」という文字の書かれた行燈(あんどん)が机の上に置かれていた。  いわゆる〝易者〟というやつだろうか?
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