噂の黒マント ~街角の隠者~

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「……わ、わたしですか?」  周囲を見回した後、付近に他の人は見当たらなかったが、一応、自分を指差して尋ねてみる。 「ああ、おまえさんじゃ。なんとも酷い顔をしておるぞ? どれ、初回サービスということでタダで見てしんぜよう。ほら、ここに座りなさい」  すると、その易者の老人は大きく頷き、そう言いながらわたしを手招きした。  酷い顔…とは失礼な言いようだが、それはあの〝黒マント〟らしいのを見たためなのか? それとも日頃のストレスが溜まってるからなのか……。  怪しさ満点ではあるものの、まあ、タダだし、たとえインチキでも懐は痛まない。ここからは追加料金…云々言い出したら速攻で席を立つまでだ。  多少の気晴らしにもなるように思えたので、わたしは老易者の言葉に乗って、彼の前に置かれた椅子へ腰掛けてみた。 「……?」  お香でも焚いているのか? 座るとなんだか甘い匂いが不意にわたしの鼻を突く。 「わしの占いはこのタロットで行う。ただし、通常は〝小アルカナ〟と呼ばれる(ワンド)(カップ)(ソード)円盤(ペンタクル)の四種のトランプに似たカードも用いるが、わしの場合は〝大アルカナ〟という二十二枚の絵札のみを使うものじゃ」  だが、わたしがその匂いに気をとられている内にも、早々、老易者は占いの説明を始めている。  和装の見た目からして本当に()か、あるいは手相のような東洋的なものかと思っていたのだが、意外にもバリバリに西洋的なタロット占いだった。
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