噂の黒マント ~街角の隠者~

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「では、始めよう……」  そっち系、わたしはぜんぜん詳しくないので説明はよくわからなかったが、ともかく老易者はカードをよくきると、臙脂(えんじ)の布の敷かれたテーブルの上にそれを並べてゆく……わたしでも何かで見たことあるような絵の札で、それらを十字型に並べた後、その右横にまた縦一列に四枚を置いた。 「うーむ…… 全体を包む雰囲気は〝(タワー)〟の正位置。意味は古い概念の混乱、崩壊による目覚め……対立する力は〝 正気(ジャスティス)〟の逆位置。不正、不公平、法律……と出ておるな」  並べ終えると、それをマジマジと見つめながら老易者はわたしの運命を読み解いてゆく。 「問題の根幹にあるのは〝教皇(ハイエロファント)〟慣習や規則の遵守じゃ。そして、〝恋人(ラバーズ)〟の逆位置に〝節制(テンペランス)〟の逆……お嬢さん、最近、カレシと別れたの?」 「……!」  聞き慣れない単語が多くて言葉の半分も理解できなかったが、その指摘を聞くとわたしはハッと息を飲む。  思いがけずも、ズバリそれは当たっている……。 「その顔、当たりじゃな……で、近い未来に起こるのは〝戦車(チャリオット)〟の逆位置。闘争や復讐。道義を無視して得る勝利じゃ」  しかし、その先はまたよくわからない。 「今、お嬢さんが恐れておるのは〝死神(デス)〟──変化や変革じゃ。一方、周りの者達は〝皇帝(エンペラー)〟の逆位置。現体制への服従をお嬢さんに望んでおる。しかし、お嬢さんが心の奥底で願っておるのは〝審判(ジャッジメント)〟……即ち覚醒(・・)じゃ」  老易者は髑髏の死神が描かれたカードを指し示しながら続きを語るが、別に「死ぬ」だとか不吉なことは言っていない。どうやら絵柄や名前とは裏腹に、そうした悪い意味のカードというわけでもないようだ。  しかし、なんだろう? 覚醒って……周囲が望んでいるのは服従? どういう意味なんだろう?
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