噂の黒マント ~街角の隠者~

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「最後に、全体を総括しての結果は〝悪魔(デビル)〟…… 暴力、革命、黒魔術、理解し難い感覚じゃ……」  そう言って締めくくると、老易者は最後に置いたカードを手に取り、その表面(おもてめん)をわたしの方へと見せつけるようにする……そこには、ヤギの角と翼の生えた明らかに悪魔とわかるものと、その足下に鎖で繋がれた全裸の男女が描かれている。  暴力や黒魔術……先程の〝死神〟とは違い、その意味するところは見た目通りにあまり良くないカードらしい。  でも、それがわたしの運命とどう関係してるというのだろうか? 「あの、それってどういう意味なんですか……?」  最初はそれほど興味もなかったのだが、なんだか気になって思わず尋ねてしまう。 「まだピンとこないかね? いや、本当はもう気づいているはずじゃ。お嬢さんを苦しめておるのは世の不正や不公平……そんな慣習や規則の遵守……周囲が求める服従……何か思い当たることがあるじゃろう?」  不正や不公平──職場でのパワハラやセクハラ、ブラックな労働条件……老易者が改めて告げる占いの結果に、そんな日々の理不尽をわたしは思い出す。  ……そうだ。カレシと別れたのだって、そんなストレスや時間のなさからすれ違い、だんだんと心が離れていったからだ……すべては仕事の……いや、ひいてはそんな労働者を苦しめて搾取する、この社会のあり方が原因なのだ。 「ようやくわかってきたようじゃの……じゃが、おまえさんは変化を恐れておる。反面、本心では覚醒(・・)を望んでおるというのにの……」  わたしの心を見透かしているかのように、老易者はわたしの眼を覗き込みながらなおも続ける。 「しかし、カードは闘争と崩壊による目覚め、そして、復讐と暴力による革命が起きる未来を示しておる……さあ、今こそ目覚めの時! この〝悪魔(デビル)〟のカードをよーく見るのじゃ!」 「悪魔……」  老易者は不気味な悪魔の絵を眼前に突きつけ、追い討ちをかけるかのようにしてさらに告げる。
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