噂の黒マント ~街角の隠者~

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「このカードをよーく見つめておれば、自ずとそなたのなすべきことが頭に浮かんでこよう…… 〝悪魔(デビル)〟は欲望のカード。さあ、規則や道義などかなぐり捨てて、己が欲望のまま、自らを苦しめてきた社会への復讐と革命を果たすのだ!」  悪魔と眼を合わせながら老易者の言葉に耳を傾けていると、なんだか頭がぼーっ…としてきてしまう。 「復讐と革命……」  ……そうだ。わたしを苦しめているのはこの不公平な社会だ……わたしが幸せになるためには社会に復讐し、たとえ道義を無視した方法でも勝利を収めなければならない……。 「ここに、〝悪魔(デビル)〟が示した暴力の象徴がある。これをお嬢さんに授けよう……」  だんだんと自分のなすべきことが見えてきたわたしに、何かを机の上に置いて老易者はそう促す。 「これは……」  悪魔の絵からそちらへ視線を移せば、それは一本のナイフである。ホームセンターでも売っていそうな、ありきたりの料理用ナイフだ。 「さあ、今こそ覚醒の時。己の願望を解き放ち、この力を使って社会への復讐を果たすのだ!」  このナイフで、理不尽な社会への復讐を……。  老易者の言葉に従い、わたしはそのナイフを手に取るとゆっくり椅子から立ち上がる……。 「…ギャハハハ……社長、もう一件いきましょう!」 「おう。株でだいぶ儲けたからな。今日は俺の奢りだ! ガハハハハ…」  ふと表通りへ目を向ければ、まさにそんな社会を代表するかのような俗物達が、呑気に酔っ払ってご機嫌に闊歩している。
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