噂の黒マント ~街角の隠者~

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「さあ、世の理不尽に服従するのはもう終わりだ。社会への復讐を果たし、自身も、そして世界も変革するのだ!」 「……そうだ。わたしは変わる……わたしが世界を変えるんだ……」  ついに覚醒したわたしは、ナイフを握る手に力を込めると、言い知れぬ高揚感とともに表通りの方へと一歩を踏み出す。  ……が、その時だった。 「……痛っ!」  突然、腰の辺りに激しい痛みを感じると、感電したかのような痺れを覚える。 「……ハッ! あ、あれ? な、なんでわたし、ナイフなんか……そ、それに今、なんて怖いこと考えてたの?」  その衝撃に、わたしは憑き物でも落ちたかのように正気を取り戻した。  老易者に促されたとはいえ、自分でナイフを手にしたことはちゃんと憶えている……多少なりと社会に不満があったことも確かだが、だからといって、ナイフで見知らぬ通行人を襲うだなんて、なぜそんな恐ろしいことを考えていたのかがさっぱりわからない。 「乱暴な真似をして済まなかった。だが、てっとり早く呪い(・・)を解くには強い刺激が一番だからな。(タワー)のカードでも()で塔が崩れ去っている」  何がなんだかわけがわからず、わたしが混乱した頭で呆然と立ち尽くしていると、不意にそんな声が背後から聞こえる。 「……!?」  振り返ってみると、そこには全身影のように真っ黒い人物が、どこからともなく姿を現していた。  その手には何やら先端にバジバジ…と蒼白い電流の流れる装置を握っている……おそらくスタンガンだ。今の衝撃は、たぶんそれをわたしに押し当てたのだろう。
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