一枚の名刺

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 ──数時間前──  バイレックスの重役会議が行われていた。玉城は独り重役たちの目線を一身に受けていた。  黒木部長と約束を交わした。それを守れるかどうかは正直分からない。従業員に退職を促すのは骨が折れた。従業員から怒りや苦痛を訴えられ、個々の内情を知れば知るほど彼等の痛みに心は握り潰されそうになった。だからこそ分かる。この従業員たちに寄り添える会社を選ぶべきだ。痛みを伴うのは従業員だけではいけない、会社もまた同じ痛みを分かち合うべきなのだ。  玉城は熱く語った。単に退職金等を割り増しさせ、支援も形状だけなどの見せかけではいけない。会社側も身を切り共に血を流すことが重要と説いた。  残念ながらユープランスタッフはサービスの内容はそこそこで金額を全面的に押さえ提案をしてきた。だからこそ両者を比較検討した結果、玉城はテラスヒューマニティを選択し推薦した。玉城も黒木に感化されたように熱弁をふるった。 「でも金額がな。ユープランスタッフに任せれば三分の二程度で済ませることができるんだろ? だったらユープランスタッフに任せるべきなんじゃないか?」  反対の意見もあった。しかし一人、玉城の熱弁に心打たれ動かされた男がいた。社長の小西(こにし)だ。 「まぁ、待て、諸君。玉城君は今、一番大変なポジションにいる。私たち経営側から責められ現場から責められ悪戦苦闘したと思う。本来なら玉城君は経営側の人間だ。普通ならコストを考え安いユープランスタッフを選ぶのが妥当だろう。だが彼は私たち企業側のメリットも伝え従業員のメリットも伝えた。世間からすれば私たちは悪役だ。罪のない従業員を心なく切ろうとしているように見えるだろう。内情も知らずにだ。だが私たちも進まなければならない。この国や未来のために。そう考えるとユープランスタッフでいいのだろうか? すべては金ではないと言い切れないのは確かだ。しかしやはり我々は心で動くのだ。大切にすべきは人なのだ」  実際のサービス利用者の言葉の数々が拾い上げられていた。ユープランスタッフのサービスは残念な声が多かったのに対しテラスヒューマニティを好意的に捉える内容が多かった。対照的だった。 「これが答えだろ。私たちは最後まで彼らの面倒を心から見ないといけない」  小西は多数決を採った。採用する支援会社が決まった。  決定後、急いで玉城は黒木に連絡を入れた。 「今回、弊社の支援御社にお任せします。黒木部長。あなたの熱意はすごかった。社長がものすごく感激されてましたよ。黒木部長で決まったようなものです」
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