一枚の名刺

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 ──六年後── 「黒木良くやってくれたよ」  桜井は黒木を労った。桜井は前社長の体調不良からの退任に伴い社長へと昇進していた。その間、黒木はバイレックスの支援を受注したことをきっかけに活躍し、今では公共事業の若年者雇用対策の支援事業まで幅広く受注する活躍を見せていた。神崎が立ち上げたものを見事に黒木がそのプロジェクトを成功させた。 「いえ、沢山の人に支えられたのでここまで来れました」 「そうかも知れない。だけどそれは紛れもない黒木の力だよ」  桜井は椅子に深く座り感慨深く黒木を見つめた。 「なぁ、推薦受けてくれるよな。俺の最後の推薦だ」  桜井も今年社内規定で定年退職になる。 「はい。まだまだ力不足ではありますがこのテラスの力になりたいと思います」 「これからは黒木本部長だ」 「ありがとうございます」 「長かったのか短かったのかどっちだ? 黒木」  黒木は目を閉じた。走り抜けた日々を振り返っていた。 「そんなこと分からないくらい駆け抜けましたから。ただ、この六年は本当に貴重な体験でした」  桜井は目を細めた。 「俺の夢はひとまずケリがついた。来月だな。あいつに報告に行けるな。あいつの夢も叶ったぞ。これからのテラスヒューマニティをよろしく頼むな」
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