一枚の名刺

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 黒木の話を聞きながら桜井はある夢が広がった。 「なぁ。夢を今から一緒に作らないか?」 「えっ、一緒に?」 「お前が神崎みたいな男になりたい夢があるんなら、俺の夢は今からお前だ。お前を神崎と同じ地位に育てる。それにお前の夢は神崎が死んだからって失くなる理由にはならないだろ?」 「お前は神崎の意思を充分受け継いでると思うんだよ。あれだけ共に仕事をしてきてあれだけ仕事を叩きこまれたんだからな。それをお前は反発することもなく尊敬し神崎みたいな男になりたいと言った。だったら俺はお前を育てたい。夢が出来ちゃったよ」  黒木の肩を軽くそして諭すように叩いた。目は優しかった。 「何も神崎はいなくなってお前はあの男をいつでも目指せるじゃないか? あいつはいつまでもお前のここにいるだろ?」  桜井は黒木の胸に拳をあてトントンと打った。 「お前はお前の夢を叶えるために何も臆することはないじゃないか? お前は夢を叶えられる。お前が神崎を忘れない限りな」  桜井は雨が降り続ける空を見た。 「俺はお前を神崎のところまで引き上げる。つまり本部長にすることが俺の新しい夢だ」  桜井に心を突き動かされる黒木。 「そう言えば以前本部長に言われました。お前を俺に肩を並べさせるのが夢だって」 「そうか。だったら話は早い」 「俺たちの夢に神崎も乗っかっちまったな」  桜井はどんどん話を進めていく。 「黒木本部長に俺はお前をする。お前の頑張りが絶対必要だがな」  桜井は笑った。聞きなれず黒木は苦笑いを浮かべる。 「ただしリミットがあるがな。だ。うちは中堅企業だか社長の意向で役員も定年制を定めている。俺も今年で五十九歳。うちの役員の定年退職は六十五歳だ。その間に、お前を黒木本部長にする」 「これで神崎の夢も巻き込んだな。これは三人の夢だ」
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