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数日後、プロジェクトのメンバーが集められた。メンバーの視線は一人の男に注がれた。プロジェクトのリーダーは本来、神崎だったが休職中に黒木が代理としてプロジェクトを進めていた。しかし本来のリーダーを失ったチームはなかなか上手く進まなくなっていた。そこで桜井は社長に願い出て専務と兼務でこのプロジェクトの責任者として就くことにした。
「皆良く頑張ってくれているな。知っての通りこのプロジェクトのリーダー神崎本部長は志半ばに倒れ帰らぬ人となった。無念だと思う。まずは神崎の冥福を祈ろう」
メンバーは黙祷を捧げる。
「悲しいが、しかし、我々は進まなければならない。テラスヒューマニティが存続する限り、進まなければ沈んでしまう。それだけは避けなければならない。だから私は現場に戻って来た……」
皆の緊張した視線を見つめた後、桜井は笑顔を見せた。緊張が一瞬溶けた。
「だがな、何も変わらず進めてくれ。大事なのは今までの不安から解放されることだ。分かるか? 黒木……」
黒木は桜井を見つめた。
「お前には気負いがあった。神崎の起こしたプロジェクトを成功させないといけないという呪縛がな。このプロジェクトを成功に導こうとするのは当然だ。だが失敗を恐れてはいけない。挫折を恐れてはいけない。それはメンバー全員もそうだ。今まで受注出来なかったなどの失敗は忘れろ!」
ふっと息を吸い込む桜井。
「プロジェクト全ての責任は私が取る。誰の責任でもない。皆それぞれ思う選択をしてくれ。そして挫折も成功も全てこのプロジェクト内で味わうつもりでやってくれ……失敗を恐れるな。糧にしろ。成功に導け。責任はこの桜井がすべて取る!」
あまりにも力強い宣言にメンバーは圧倒された。
「黒木、今から正式なリーダーに任命する。舵はお前が取れ。この人事は、俺の責任で社の反対を押し切った。思う存分暴れろ。そして神崎に成功を報告するんだ」
あまりの熱量にメンバーは黙っていたが黒木は一人声を上げた。
「リーダーとしてみんなを纏め、必ず成功させます」
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