一枚の名刺

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「正直に申し上げます。今回内部事情は外部の人たちは存じ上げないと思われます。御社は半導体製造のメーカーとして第一線を走って来られた。それは称賛に値します」  熱を込めて黒木は続けた。 「各地方に工場を立ち上げ雇用を産み出すことによって現地の人たちに喜ばれてきた。しかし、昔のように通信機器や大型のコンピューターならば品質は重要でしたが、昨今ではパソコンや携帯が主流になってきています。それらであればそこまで品質にこだわる必要がない。そうなれば諸外国が開発する安価で品質が悪いものでもいい訳です。数年動けばいい訳ですから。今、現状としてこれだけの人を雇い人件費を維持することは難しい。そうですよね。しかしそれはあくまで専門的な知識であって一般の方々が知ることは容易ではありません」  玉城や他のメンバーは黙って頷いていた。 「そこで人件費を押さえるために工場を集約したり、まだ人件費の安い海外へ工場を移転させるのは一企業を守るためには必要なことです。ただ外から見るといくら説明しても簡単に人を切り捨て企業が生き残り従業員を見殺しにしてるようにしか映らないのです。だからこそうちのサービスが必要だと思います」  サービスの内容をこと細かく伝える。前回提示したものがブラッシュアップされていた。ユープランスタッフの内容と違う。従業員に対し細やかなサービスが紐付けられアフターフォローも好感が持てた。もし自分がどちらのサービスを受けたいかとなると間違いなく黒木たちだ。  熱く語り過ぎたせいで黒木は汗を流している。川村も驚いている。まるで神崎部長を見ているようだと。 「あなたの熱意に負けましたよ。私はあなた方の案件を支持します。金額云々ではありません」  黒木は喉を枯らし息を乱している。 「ご期待に添えるかどうかは分かりませんが、私も尽力します」  暗く生気のなかった玉城の目が輝いていた。
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