この思いを君に届けられたら

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                《1》 君との出会いは病室だった。トラックに跳ねられて全治五ヶ月の骨折を負った。皆に骨折で済んだのは奇跡だと言われた。 子供の頃に親を亡くした俺は、近所の田中さんの家に引き取られた。田中さんは六十歳を過ぎていて、骨折した俺が家にいると負担をかけてしまうと思って、完治するまで入院することに決めた。 病室に入って俺のベッドに看護師さんが誘導してくれた。奥には窓があって、窓の奥から前に二個目のベッドが俺のだ。 「こちらが佐藤さんのベッドです。しばらくはこちらで安静にしててください」 「はい、ありがとうございます」 看護師さんの南さんがそう言い残して病室を静かに去っていった。 俺はベッドに横になって昔から好きだった作家さんの本を読む。 病院で読めるようにって田中さんが買ってくれた。ワクワクしながら表紙を見ると、隣の方から声をかけられた。 「はじめまして、佐藤さんだよね」 びっくりして隣を見る。 「はじめまして、佐藤ですけど」 「私は菊池 青空。青い空って書いてそらって読むよ。高一」 「青空、素敵な名前ですね」 「ありがとう、佐藤さんの名前は聞いてもいいかな?」 「俺は佐藤 陸、高一。青空さんと同じ」 「そうなんだ!あ、答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど、どうして入院してるの?」 「俺はトラックに跳ねられて骨折して」 青空さんの目を見ると、なんだか彼女には隠す必要なんてない。そう思った。 「骨折か、全治何ヶ月?」 「五ヶ月です。家の人に負担かけたくないから完治するまで入院するって決めて」 「そう。あ、同年代だしタメ口でいいよ。あと、さん付けする必要ないよ。仲良くしたいし」 青空さんは素直だ。目を見ればわかる。嘘のない綺麗に透き通ってる瞳。長くて綺麗な茶色い髪。可愛らしい笑顔を持つ。 「青空だけでいいの?」 「うん、よろしくね陸」
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