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《2》
入院して二ヶ月が過ぎた。本を読んでいるふりをして外の景色を眺めていた青空を見ていたら彼女が振り向いた。やべ、視線を感じたのかな。ソワソワしていたら彼女が口を開いた。
「陸、暇?」
突然聞かれてびっくりした。なんでと聞くと、青空はベッドの横にある引き出しから水彩絵の具とちょっと小さいキャンバスを手に取った。
「絵描かない?水彩だから病院側が許してくれたの」
「そうなんだ、でも俺絵なんて描けないよ」
俺は絵を描くのが下手だ。空が好きで空を描いてみようとしたけど色が混ざっちゃってどす黒い色になってしまった。
「えー?じゃあ、私のモデルになってくれない?」
「モデル?」
「そう、外にベランダがあるけど。今の状態だと動くのも大変そうだから窓際にあるソファに座ってくれれば」
そういうことか。青空はソファに座りながらなにかしてていいと言っていた。モデルは確か動いちゃダメって聞いたことがあったから俺はソファに座って本を読むことにした。
「うん!空も綺麗だし完璧になりそう!」
「空も描くの?」
「うん!」
さっきまで青一色だったのがピンクとオレンジと赤と黄色、紫と様々な色に光っているように見えた。なんて綺麗なんだろうか。
この綺麗な空をあの草原の木の下で見たら何も言えなくなるだろうな。
青空が絵を描き始めてから一時間。綺麗だった夕焼けはもうすっかり暗くなっていた。夏だから夕焼けの時間が遅い。
「完成!やっぱり最初に夕焼けの空を描いてて正解だった!」
「見せて見せて」
青空は俺が写ってる絵を見せてくれた。おぉ!と声を出してしまった。
水彩画でもこんなに綺麗に人を描けるなんて。青空はきっと絵を描くことが生まれ持った才能なんだなと思った。
「水彩でもこんなに俺描けるんだね」
「うん、細かいところがあるけどね」
俺は青空の目を見た。彼女の目にいつも惹かれる。やっぱり透き通ってて綺麗だなって思う。青空と目があった。
「何?」
苦笑している青空に俺は顔を赤くして「別になにもない」と答えた。
じゃあなんで俯いてるのと聞く彼女に俺は何も言えなかった。彼女を見るとなんだかドキドキする。緊張なのかどうかがわからない。
「佐藤さん菊池さんご飯を持ってきました」
看護師さんの南さんが言った。俺はベッドに戻ろうとしたがまだなにかに捕まってないとよろよろする。
「陸、肩に手を回して」
青空の発言に『は!?』と言おうとすると喉の変なとこに唾液が入ってむせた。
大丈夫と心配してくる青空と南さんに大丈夫と言う。一人で行けるよと青空に遠慮したが青空は『いいや!大丈夫じゃなさそうだよ』と俺の腕を支えてくれた。
手伝ってくれるのは嫌じゃなかった。ただ、青空に接近するとドキドキが止まらなくなる。この気持ちは一体なんだろうか。俺は過去二ヶ月の変化に困惑した。
今日も田中さんがお見舞いに来てくれた。来るのは大変だろうから来なくてもいいと言っているのに、『青空ちゃんとも会いたいのよ』と週に四回も来る。青空は今田中さんと笑顔で話している。
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