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「それで、陸は私にりんごをくれたんですよ」
「あら、そうなの?陸くんもいい事するねぇ」
田中さんがこっちを見て再び青空と顔を合わせた。一体何の話をしているんだろう。
気になって気になってしょうがなくて俺はベッドから立ち上がって、青空の横にあるソファに座った。本を読んでいるふりをして二人の会話を聞く。
「青空ちゃんは陸のことどう思ってるんだい?」
そんな話かよ。田中さんも変な話題出すんだから。聞こえてないふりをする。
「陸はとても優しくて、賢くて、面白い人だと思います」
「そう、だってよ陸くん」
急に呼ばれてびっくりした。なんで俺を呼ぶんだろうと本から顔を出すと、青空と田中さん二人がこっちを見ている。ドキッ。青空と目があった気がした。
「なんで俺を呼ぶんだい?」
「なんでって、陸は私達の会話を気になってここに移動したんでしょ?」
「え、そ、そんなわけないし」
なんでバレたんだ!?
「そんな訳あるでしょ」
「なんでそう言えるんだよ」
「だってソファに移動して十分も経ってるのに、陸は本が逆さまになってることに気づいてないじゃない」
え?俺は本に目を通した。文字が逆さまになっている。青空と田中さんの会話を聞くのに集中しすぎて本が逆さまだったことに気が付かなかった。このまま言い訳なんてしたくない。俺は素直に白状した。
「話をこっそりと聞いてましたー。だってたまに二人共俺のことチラチラ見てくるからさ、嫌味でも言ってるんだとしか思えないんだもん」
「あー、そういうことね」
田中さんはいちごがたくさん入ってるタッパーを俺に渡して去った。
「こんな暑いのに苺なんて買えるんだね」
俺がつぶやくと青空が『なつおとめ』っていう苺なんじゃないかなと言った。
俺は保冷バッグに苺を保管して、南さんが持ってきてくれた夜ご飯を食べた。俺は食べるのが早い。それに比べて青空は遅いと自覚している。
青空は無理して早く食べさせたくない。俺が食べるのが早いから、俺が暇になるのかもと青空もできるだけ早く食事を終えようとする。俺はもっとゆっくり食べなと言う。今日もそうだった。
「青空、そんな早く食べないほうが、ゆっくりでいいから。俺のことは気にするな」
「...はい」
食べる速度を落とした青空はご飯を味わっているように見えた。今日のメニューはお米とハンバーグとスープだった。
食べ終わって食器を回収しに来た看護師が病室を去ると、俺は田中さんが持ってきてくれた苺を青空と分けて食べることにした。
青空は最初「陸が貰ったんだから全部食べなよ」と言ったが、俺だけで食べるのは嫌だと言って分けることになった。
なつおとめは甘い。酸味が少なく果汁も多い。苺を食べて幸せそうにする青空を見て俺の心がときめいた気がした。
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