この思いを君に届けられたら

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               《4》 全治五ヶ月になる骨折のはずが、この間の検査で四ヶ月で完治したと言われた。病院の人達全員びっくりしていた。俺は鬼のような回復能力があるとかないとかと噂されるぐらい。完治したから俺は退院することになった。 退院する三日前。俺は院長と話したいと南さんに伝えた。なんども無理だと言われたけど、退院二日前に院長が俺を呼んだ。 「佐藤くん、私と話したいって聞いたけどなんのこと?」 「はい、俺は四ヶ月前に当院に入院させていただいたんですが、その時出会った菊池青空さんと仲良くなりまして、彼女の願いを俺が叶えたいと思ったんです」 「菊池さんね、よく聞いたわ。佐藤くんと菊池さんが仲いいってこと。それで願いって?」 「青空、青空さんは親が来れないことをご存知でしたか?」 「ええ」 「彼女は、親が来ない代わりに小学校時代によく行っていた草原に行きたいと悲しい笑みを浮かべながら言ったんです。俺もよくそこの草原に行ってたので場所がわかります。そこで院長にお願いしたいのが、彼女の外出許可を下ろしてくれませんか」 俺は院長の前で頭を深く下げた。どうしても青空の願いを叶えてあげたい。それなのに院長は眉を寄せて何度も不可能だと言った。俺はどうしてもと何度も説得しようとした。すると願っていた答えが来た。 「わかりました、しかし彼女に怪我が一切ないようにしてください」 「はい!」 俺は満面の笑みで病室に戻った。 退院した次の日、俺は青空を迎えに行った。彼女は癌であるが、歩くことができると言っていたから車椅子なしで、二人並んで草原に向かった。 「南さんから聞いたよ。院長に説得したって?」 「うん、青空の願いを叶えたかったから」 「それって私のことが好きだから?」 「...知らね」 「もう、素直じゃないんだから陸は」 そうこう話していたら草原が見えてきた。 「着いたぞ」 空は今日も広くて綺麗な青色をしていた。予定では夕日を見た後帰るということだ。そよ風が吹いて、草が優しくゆらゆらと揺れる。あの時あった木も残っていた。青空は嬉しそうだ。 「陸、ここ」 「ん?」 「ここに私の大切なものを埋めてたの。だからここに戻りたかったの」 タイムカプセルみたいな発想だなと俺は笑った。 「あった!」 近くにあった木の棒で土を掘る。すると四角い缶の箱があった。拾って蓋を開ける青空の笑顔は光に照らされているように眩しかった。 「懐かしい、この熊のキーホルダー!お気に入りの鉛筆!これ使うと良いことあるんだよ!ネモフィラの押し花!これ、全部大切なものなんだ」 俺はうなずきながら青空を見る。連れてきて正解だ。 夕日が始まった。俺と青空はあの木の下に座って夕日を眺める。いつも見ている夕日。なにも変わらないただの夕日。 それなのに今日はいつもの何千倍も美しく感じた。なんでだろうか。夕日を見終わって病院に戻った。 「今日はありがとう陸」 そう言って南さんと病室へ入る青空を俺は見送った。青空と連絡を取っているから話せる。そう思っていた。
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