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「いやぁ、熱いね、熱いねえっ!」
ロビーを出たところで、乱暴に肩を叩かれた。
振り返ると同時に、隣にいた橘が小さく悲鳴をあげる。
そこにいたのは、小倉や勝田を含めた数名のクラスメイトであり、ニヤニヤといやらしい顔で僕たちを眺めていた。
「まさか、最初から、つけていたの?」
「いいや、ぐーぜん。とはいえ、エンドロールの合わせてベロチューなんて、やることやってんだな」
勝田の、まるでおもちゃを見つけたような絡みつく声に、頭がカッとなりそうだった。
ふざけるな、なにが偶然だ。
「これからみんなでファミレス行こうぜ。そんで、映画の最中になにを話していたのか、具体的に教えてくれよ~。いいだろ~?」
そう言いながら勝田は、無遠慮に肩に腕をまわしてきて、汚い顔を寄せてくる。
――バキッ!
なにかを言うよりも先に、拳が勝田の鼻っ柱にめり込んだ。
突然のことに、クラスメイト達がぎょっとして僕を見るが、僕は久しぶりの暴力に、しかも【殴った】という直接的な行為に、脳細胞が歓喜で震えて、殴った拳の痛みすら、甘美な喜びで胸の奥がざわめいていく。
小倉が慌てて勝田を抱き起そうとして、クラスメイト達は何人かが逃げて、何人かが大人たちを連れてこようと動いた。
「あ」
その様子に、僕の遅れてきた理性が悲鳴を上げ、茫然としている橘と目が合う。
橘の恍惚とした昏い目には、恐怖ではなく暴力を振るえた僕への羨望と自己嫌悪が渦巻いていた。
あぁ、やっぱり、僕たちは、人間のふりをしたニンゲンミマンだ。
「行こう、橘」
「うん」
僕たちは走り出した。
誰もいない遠くへ。
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