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はぁっ、はぁっ、はぁっ。
今、誰もいない田舎道を、僕たちは走っている。
勝田を殴り倒してから、電車を乗り継いで、ネカフェに泊まって、コンビニで食糧を買って、蚊に刺されながら、誰もいない土地を求めて僕たちは走った。
はぁっ、はぁっ、はぁっ。
暑い。痛い。足の裏。腕、痒い。
目と頭、痛くなってきた。
熱中症なんだろうけど、だけど、僕も橘も止められない。
お互いがお互いの手をしっかり繋いで、離れ離れにならないように。
さぁっと、草を撫でる風の音と共に、空が曇ってきた。
これから雨が降るのだろうけど、雨が永遠に降り続かないことを、人間たちは知っている。
だけど、ニンゲンミマンの僕たちは?
雨で全身が濡れると、がくっと力が抜けた。
橘が膝をつき、僕は彼女を庇うように抱きしめる。
橘の冷たい体温が、僕の濡れた衣服越しに伝わり、ぐったりとしている赤いの唇から荒い息が漏れた。
「どこかで休もうか」
「うん。ちょっと、疲れちゃったね」
僕の提案に橘が同意すると、僕の胸に顔をうずめて背中を優しくなでる。
まるで僕の存在を許すように。
そんな風に思ってしまうのは、ただの思い上がりだろうか。
僕たちの身体が熱いのか、それとも雨が冷たいのか、温度そのものが分からなくなった頃、進行方向に小さな駅舎が見えた。
夏日が差して、草の匂いが立ち上り、蝉の声が聞こえ始めると、初老の駅員さんが、ぎょっとした顔で僕たちに駆け寄ってくる。
あぁ、終わった。終わってしまった。
雨上がりの空の下で、僕たちは泣いて笑うしかできなかった。
【了】
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