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2.それ
ヘレンとアリシア、そして彼が暮らすこの建物には窓が少ない。明り取り用の小窓がいくつかあるにはあるが、砂嵐が吹きすさぶこの星においては、開けることなどかなわないため、どれも嵌め殺しの小さなものだ。
そんな建物の中唯一の、開閉可能な大きな天窓が備え付けられた場所、彼は今日もそこにいた。
そこは、彼が「研究室」と呼ぶ場所であり、ヘレンとアリシアが生まれた場所でもあり、そして、それ、が置かれた場所でもあった。
それ。
広大な研究室の中央に設置されたそれは、なんとも面妖な見た目をしていた。
まず目を引くのは、平たい箱の上にどっしりと備え付けられたお椀のような形状のもの。そのお椀の中央からは鉄塔を思わせる形に組み上げられた鋼製の棒が覗いている。さらに、お椀を乗せた箱を中心にいくつものアームらしきものが複雑に取り付けられていて、俯瞰して見ると、それはさながら金属でできたいびつな生き物のようでもあった。
見上げるほど大きいわけではない。が、その特殊な形から、研究室の中でも一際存在感を放つものとして今日もそこにあるそれ。
それをヘレンは無感情に見つめた後、視線を転じて彼を探す。
彼の姿は、それに設置された再生機器の脇にあった。
赤い髪に半ば隠された耳の中に、イヤホンの先を差し込み、彼は目を閉じている。
一心に耳を澄ましている彼の横顔を見つめながら、ヘレンは思い出す。
あの日のことを。
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