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1.わからない
「人はどうして生まれるのですか?」
肩より少し長い亜麻色の髪が砂交じりの風にさらさらと流される。それをかきあげもせずに問うと、彼は困った顔をしながら空を仰いだ。
黄色く煙った空が今日も何もかもを押しつぶすようにのしかかってきていた。
「どうしてか。難しいことを訊くね、ヘレンは。けれどそうだな。僕はね、人は自身が成せることを探すために生まれるのではないかと思うよ」
「よく、わかりません」
そう言ったのは、長い白銀の髪をやはり風に遊ばせたアリシアだ。
「では、私たちはどうして生まれたのですか? 私たちも何かを探すためですか」
「うーん。そうだな。君たちは……」
アリシアからの質問を噛みしめるように彼は、防護服の透明なシールド越しに今一度黄色い空を仰ぎ、唇を引き結ぶ。そうして数秒そのままでいた後、すうっと視線をヘレンとアリシアに戻して笑った。
「僕たちの夢を形にしてくれるために、生まれたんだよ」
夢。
その言葉はあまりよくわからない。
というより、彼の言うことはわからないことの方が多い。
ヘレンだけかと思ったが、訊いてみたら、アリシアもそうだと言う。
「私たちはヒューマノイド。人ではない。自分と異なるものを理解できないのは仕方ないことよ」
アリシアはヘレンよりもずっとクールだ。同じヒューマノイドでもこうも違うのか、とヘレンはいつも驚かされる。
ただ、気質は違ったとしても、アリシアがいてくれることがヘレンにはとても心強い。
……彼にとっては、どうなのだろうか。
自分たちが傍にいることは彼にとっての安らぎになっているのだろうか。
少しもやもやする。そのヘレンの気持ちがわかったかのようなタイミングで、アリシアがヘレンの肩に手を触れてきた。
「マスターのところへ行きましょうか」
頷いてヘレンはアリシアとともに居室を出た。
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