5.届いて

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5.届いて

 黒い服の裾をさらり、と揺らし、黄色く煙った空を仰いだ彼女がそうっと両の手を宙へ伸ばす。  その唇から、声が漏れた。  単語、ではない。メロディだった。  歌、だった。  しかもこの探査機が運んできたものとは違う歌。自分たちのデータベースの奥底にしまい込まれたどこか切ない旋律。  おそらくは、マスターが聴きたいと願ってやまない、この星に伝わり、今は音源でしか聴くことができなくなったこの星の歌。彼自身の想い出の歌。  気がついたらヘレンも歌っていた。  アリシアの低く甘やかな声が、ヘレンの高く軽やかな声と絡まり合い、室内を満たす。  天窓の向こう、黄色い空を押し返すように力強く響くその歌に、彼は呆然と瞳を見開いて立ち尽くしていた。  その彼に向かって、この星のすべての人へ向かって、二人は願っていた。  届け。  届け。  届いて。  と。  別々のものだった声が空気中で結ばれていく。声の境界を見失いそうになったとき、ヘレンは見た。  歌う自分達を見つめる彼の頬に、さらり、と涙が落ちたのを。  歌いながらヘレンはそうっとアリシアと目を見かわす。  アリシアの瞳もまた、潤んでいる。  自分の瞳もきっと、同じなのだろう。  そう感じながら、ヘレンはなおも声を空気中へ放ち続けた。
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