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「待って。焦げちゃう」
鼻をくすぐる食欲をいっそうそそる匂いに、なんとかして彼の両肩に手を当てて身体を離した。
今が一番程よく焼けて、食べるのに良い頃合いだろう。
「焦げがあるほうがいいよ」
彼は少しだけ微笑むと、魚のことを気にすることなく、ゆっくりと柔らかい唇を再び押し当ててきた。
火を、止めなきゃ。
頭でははっきりと理解している。
あと、もう少しだけ。
けれど、身体も心も動かずにそのまま彼の舌先の遊びを受け入れている。
ずるいよ。
私はこんな風になってしまっているのに、彼の方は余裕を持って楽しんでいる感じで。
以前、お酒の勢いもあって私からちょっと迫ったときだって、受け止めてはくれたけどどこか冷静で、うまくいなされた後はいつものように遊ばれて。
薄く目を開けると、私を見ていた彼の目尻がふにゃっと下がった。
両手でがっちりと掴もうとしても、するりとすり抜けていく魚みたい。
閉じた目の暗がりの中で、大海原を軽快に泳ぎ回る魚が浮かんだ。
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