グリルフィッシュ

4/12

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「待って。焦げちゃう」 鼻をくすぐる食欲をいっそうそそる匂いに、なんとかして彼の両肩に手を当てて身体を離した。 今が一番程よく焼けて、食べるのに良い頃合いだろう。 「焦げがあるほうがいいよ」 彼は少しだけ微笑むと、魚のことを気にすることなく、ゆっくりと柔らかい唇を再び押し当ててきた。 火を、止めなきゃ。 頭でははっきりと理解している。 あと、もう少しだけ。 けれど、身体も心も動かずにそのまま彼の舌先の遊びを受け入れている。 ずるいよ。 私はこんな風になってしまっているのに、彼の方は余裕を持って楽しんでいる感じで。 以前、お酒の勢いもあって私からちょっと迫ったときだって、受け止めてはくれたけどどこか冷静で、うまくいなされた後はいつものように遊ばれて。 薄く目を開けると、私を見ていた彼の目尻がふにゃっと下がった。 両手でがっちりと掴もうとしても、するりとすり抜けていく魚みたい。 閉じた目の暗がりの中で、大海原を軽快に泳ぎ回る魚が浮かんだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加