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九州の片田舎から就職で福岡に出てきた数年前。
知り合いなど誰もいない地で、知り合いを作ろうとも作らないとも考えず、自宅近くにあるこじんまりとした個人経営の居酒屋でひとりで飲んでると、人もまばらなカウンター席の横に客が座った。
「いつものやつね」
あいよと実家の父と同じくらいの年頃の大将が返事だけを残し、のれんの先に消えていった。
常連と思わせるやりとりを横目にみると、若い男性だった。
少しアッシュが入っている瞼までかかる前髪。紺に黒の細い縦縞のストライプスーツ。
職場の歓迎会で訪れた中洲で見かけたホストみたいで、私にはこれまでもこれからも縁が無い世界の住人のように思えた。
そんな格好の人が、宵の口にひとり居酒屋にやってきたかと思うと、急に出されたお絞りで顔面を勢いよくごしごしと拭き出したので、私は噴き出してしまった。
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