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「今日は時間いいの?」
私の問いかけに、さっと振り返りリビングの時計に目を向ける彼。
偶然か必然か。
時を同じくしてヴーヴーヴという鈍く低い振動が伝わってきた。
ちょっと、と言って抱き寄せていた私を離すと、ズボンのポケットからスマホを取り出して。
画面を見た瞬間、気づかれないくらいほんの少しだけ目を見開いてたかと思うと、すぐにポケットにしまいながら。
「明日早いから終電で帰るよ」
これまで何度も目にしてきて、頭の中に焼き付いてしまったやりとり。
朝まで一緒にいてくれたのはあの一度きりだけで。
どんなに彼を求めた日も、どれだけ彼に求められた日も、温もりを感じる翌朝はやってこなかった。
だから、今日も特段驚きはしなかった。
その代わり、ひとつだけ彼のことでわかっていることを思い出す。
とは言っても、忘れているわけではなくて、努めて忘れるようにしてただけだけど。
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