君を明るく照らしたい

1/1
前へ
/9ページ
次へ
 美奈絵(みなえ)ちゃんは、僕の初恋の女の子だ。  明るくて、優しくて、負けず嫌いで、いつも前だけを見て歩いている。僕がそんな美奈絵ちゃんに恋をしたのは、きっと小学生の時に一緒に蛍を見に行ったときだと思う。  真っ暗な夜を明るく照らしてくれた蛍を見て、笑った美奈絵ちゃんに心を掴まれたのだ。  今でも目を瞑れば、その時の景色が蘇る。蒸し暑くて、虫の音で溢れかえっていて、そこを静かに飛ぶ数匹の蛍。  街灯なんてものがないド田舎に住んでいた僕たちの夏を照らしてくれていたのは、蛍だった。 「蛍は好き。だって、こんなに真っ暗な夜でも蛍がいたら明るくなるから。蛍がいたら怖くない」  そう言って僕にニコッと笑った美奈絵ちゃんの姿。あの時の気温も美奈絵ちゃんも服装も僕の感情も鮮明に思い出せる。  パッと目を開けた時には、もう美奈絵ちゃんはいないけれど。  美奈絵ちゃんは、小学5年生の時に死んだ。橋から転落して、そのまま川に流されて死んだらしい。悲惨な事件だった。あまりにも唐突だった。  それが今でも受け入れられていないのだろう。目をつぶる度に、僕は美奈絵ちゃんを思い出す。まるで彼女がまだ生きているように、鮮明に、目蓋の裏で思い出す。  今でも彼女の返事を待っている。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加