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「蛍くん!!」
美奈絵ちゃんの声が聞こえた気がして、僕の瞳からはさらに涙が溢れ出た。
教室でいつも元気に駆け回っていた僕も、クラスメイトも、今は静かに俯いていた。美奈絵ちゃんの葬式が行われる寺の本堂には、重い沈黙が漂っている。両親に手を引かれて、僕は列に並んでいた。しかし心はここになく、どこか遠くに彷徨っているようだった。
あんなに元気に名前を呼んでくれた美奈絵ちゃんが橋から転落し、亡くなった。一昨日まで元気に一緒に帰っていたのに、僕と別れた後に橋から転落したそうだ。いつも渡っている橋なのに、どうして。
僕は未だに信じられない事実に抗うように涙を堪えようとした。けれど、信じざるえなかった。
遺影に収まる美奈絵ちゃんはもう動かなくて、ぽつんと置かれた彼女の骨が余計寂しかった。もういない、ということを突きつけられているみたいで苦しかった。どうやら遺体の損傷が激しく、やむを得ず骨葬が行われたらしい。僕にはわからなかったけど、普通のお葬式と違うということだけはわかった。
「可哀想に。まだ小学5年生でこれからだったのに……」
「事故だなんて……」
ぼそっとそんな声が聞こえた。本堂の一番前では美奈絵ちゃんの両親がやつれた表情で座っていた。焼香をあげている参列者にお辞儀をしている。抜け殻みたいだ、と僕は思った。授業参観で会った時はすごく綺麗な顔をしていたのに、まるで別人のようだ。
大人になった今は理解出来るけれど、まだ小学生だった僕にはそのことを説明されても理解出来なかった。あの骨が美奈絵ちゃんだなんて想像できなかった。美奈絵ちゃんは小学生にしてはそこそこ背が高かった。それなのにあんなに小さな箱に収まってしまうなんて。
「蛍くん、一緒にかーえろ!」
真っ赤なランドセルを背負った美奈絵ちゃん。
「これ蛍くんにあげる!」
僕に飴をくれた美奈絵ちゃん。
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