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 蛍くん。蛍くん。蛍くん。もう呼んでくれないんだ。まだ呼ばれ足りないのに。まだ読んでほしいのに、もう叶わないんだ。  両親は焼香の順番が来るのを待っていた。僕はその列の中でじっとしていられなかった。美奈絵ちゃんへの想いがどんどんどんどん溢れ出る。いつの間にか自然と身体が動いていた。  僕は自分の番にもなっていないのにスクっと立ち上がり、それに気づいた両親の手をすり抜けて美奈絵ちゃんの所に向かった。お母さんがすぐに僕を席に戻そうとするけど、僕は子供ながら立派な力で手を振りほどいた。 「美奈絵ち゛ゃんっ!!!!」  鼻水を垂らしながら、遺影に噛みつくように叫ぶ。きっと美奈絵ちゃんが目の前にいたらそんなブサイクな表情はできないくらいに顔を歪めていただろう。好きな子の前くらいではカッコつけたい年頃なのだ。でもそんな美奈絵ちゃんは、もういない。 「なんで、美奈絵ちゃん! 僕まだ……まだ……返事聞いてないのに」  美奈絵ちゃんが亡くなった日、それは美奈絵ちゃんの誕生日だった。だからこそ、美奈絵ちゃんの両親の絶望感も凄まじかったのだろう。娘の誕生日の為に美味しい料理を作り、部屋の飾りつけもし、お仕事をお休みにしたのに。美奈絵ちゃんが家に帰ってくることはなかった。  僕は帰り際、美奈絵ちゃんにリボンのついたヘアピンを誕生日プレゼントとしてあげ、何度も書き直したラブレターを渡した。そして目の前で見られるのが恥ずかしくて、逃げ出したのだ。あの時覚悟を決めて一緒にいたら、美奈絵ちゃんは今も僕に笑いかけてくれていたのだろうか。  身体から力が抜け、僕は両ひざを地面につけた。 「美奈絵ちゃんっ……」  消え入りそうな声でしゃくりあげた。そのタイミングでお父さんが僕を持ち上げ、本堂の外に連れて行った。  お父さんもお母さんも僕の行動について何も怒らなかった。でも言わないだけで、内心は怒っていたと思う。本堂の外に連れ出された僕を、両親は優しく頭を撫でてくれた。それで余計涙があふれた。
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