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 家の中は落ち着いた雰囲気で、どこか懐かしい感じがした。美奈絵ちゃんの写真が飾られた棚の前で、僕は立ち止まった。写真の中の彼女は、どれも明るい笑顔を浮かべていた。 「蛍くん、蕎麦は好き?」  お母さんに聞かれ、僕は「大好きです」と答えた。するとお母さんはにっこりと笑って、キッチンの中に消えていった。僕は再び美奈絵ちゃんの写真の数々に目を向ける。どれも目を瞑れば鮮明に思い出せる美奈絵ちゃんばかりで、何だか辛くなった。 「お線香あげても良いですか?」 「是非」  僕がお線香をあげると、「蛍くん」と呼ばれ僕はお父さんの方に体を向けた。 「少し僕の長話に付き合ってくれないか? 君になら話してもいいと思ったんだ」 「はい」 「実は、美奈絵は僕たちの本当の娘ではないんだ」  え、と口から単語が零れた。突然の告白に僕の頭は理解が追いついていない。 「美奈絵は、僕たちが養子として迎えた子なんだ。彼女が小さい頃、実の両親が交通事故で亡くなってね。それで、僕たちが引き取ったんだよ」  少し美奈絵ちゃんの面影を両親の顔に感じていたからそんなこと微塵も考えたことが無かった。 「美奈絵の本当のお父さんと僕は兄弟関係で、それで引き取ったんだ。僕たち夫婦に子供は生まれなかったし、よく相談して引き取ることを決めたんだ」 「そう、だったんですね……」  するとお父さんが立ち上がって奥からアルバムを持ってきてくれた。僕は中を見ると、そこには知らない男女の間にいる幼い美奈絵ちゃんの姿があった。 「これが美奈絵の実の両親」  こう見ると確かに美奈絵ちゃんはどちらの顔にもよく似ていた。どっちが両親かと聞かれた時、写真に写っている方がしっくりときてしまう。
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