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「美奈絵はまだ4歳だった。物覚えがついた時に、悲惨な事故に遭ってね。それが彼女のとなってしまった」 「トラウマ?」  お父さんが暗い顔をした。様子を窺うように、お母さんもキッチンからちらちらと僕らの様子を窺っている。 「美奈絵は、とても繊細な子だったんだ。事故に遭った時に、両親が黒いシャツを着ていてね。を見ると事故がフラッシュバックして、過呼吸を起こすようになったんだ」  その言葉に、僕は動揺した。「え?」と思わず言ってしまう。 「美奈絵は克服しようと頑張って、突然黒色が目に入らなければ大丈夫になったんだ。けれど、やはり突然黒色と遭遇すると過呼吸を起こしてしまってね……」 「そう、だったんですね……」 「実は一度、美奈絵が公園で遊んでいるときに、突然烏が飛んできたんだ。その時、美奈絵は驚いて涙を流し、息ができなくなってしまったんだ。僕たちはすぐに彼女を抱きしめて、落ち着かせるのに必死だった。何とか大丈夫だったが、あの時の美奈絵は一人で立つこともままならなかった」  お父さんが洟を啜って、目から零れた涙を静かに拭った。 「蕎麦茹で上がったわよー」  お母さんがキッチンから大盛の蕎麦を持って机に置いた。僕は「手伝います」と言って、残りの蕎麦をテーブルに運んだ。それから僕たちは先ほどの暗い話が無かったかのように美味しく蕎麦を食べ、明るい話で盛り上がった。  正直頭の中は混乱していて、何を喋ったのかは思い出せない。それでも決して後味が悪い話ではなかったことだけは覚えている。
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