パンゲアの土地

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パンゲアの土地

 かつて、世界には風が吹いていた。  その風は空を動かし、命の“種”を運んだ。  「パンゲア」と呼ばれた世界では、すべての種族が同じ土地の上にいた。  すべての時間、——すべての“記憶”の中に。  すべての始まりは、大地に芽生えたある一本の植物からだった。  宇宙のはるか彼方から運ばれてきた「オメガ」と呼ばれる種子は、長い歳月をかけてこの星に辿り着いた。  何もない大地に緑が芽生えたのは、この種子が大地に根を張らしたからだった。  星に吹いていた風はオメガの“葉“を運び、大陸全土に生命の基となる“種”を届けた。  空は雲に覆われていた。  空と地上を結ぶ境界線には、決して晴れることのない灰色の闇が横たわっていた。  生命など、存在できる環境ではなかった。  その環境を変えたのは、他でもないオメガの緑だった。  オメガの運ぶ恵みによって、雲に覆われていた空は次第に晴れ、世界には青が広がるようになった。  そこから何億年もかけて様々な種が生まれ、人類の祖先となる原生生物が誕生した。  人類は「風」の子供だった。  世界の記憶の中には、かつて雲に覆われていた空の姿があった。  灰色に染まり、光さえも閉ざされた世界。  ——暗黒時代の景色が。    人類は風の子であり、「夢」を見る存在だった。  世界には何もなかった。  神でさえ、存在していなかった。  人の体の中に赤い血が流れているのは、自らの足で、大地を歩くためだと言われている。  緑が広がり、青が降り注ぐ世界の中心で、「自由」を追い求めるためだ、——と。  やがてパンゲアの土地は分裂し、一つのものではなくなった。  自由を追い求める人々の足は、それでも、決して歩みを止めることはなかった。  たとえ、その足が、——「血」が流れる運命が、地平線の向こうに続いているとしても。
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