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11.動物の方がまだマシかもしれない
「どうしてそんなことになったんだろう?」
郁人は無意識にそんな疑問を口にした。そのあとで、あまりそういうことを聞くべきじゃなかったかもしれない、みたいな後悔がやってきたけれど、しょうがない。
「いろいろだよ。中学のいろんなことがいやになったんだと思う。同じクラスの奴らとかね。本当に動物みたいな脳みその持ち主ばかりだ。いや、動物の方がまだマシかもしれない。担任だって他の先生だって似たようなものだよ」
星也の口調には明らかに怒りと憤り、それに嘲りが入り混じっていた。学校のプールひとつ分くらいの怒りと憤り、そして嘲りだ。
そこには悲しみもスプーン一杯分くらい混ざっていた。詳しいことは教えてくれなかったし、それ以上になにかを話してしまえば、きっとその痛みをこらえきれなくなってしまうだろうから。
けれど、そんな巨大な闇みたいなものを星也が抱えていることだけは痛いほどにわかった。
「でも、僕は勉強が嫌いってわけじゃないからね。だから塾に通うことにした。中学も出席日数が最低限足りるくらいには通ってる。動物以下の脳みそしか持たない連中ばかりの動物園に無理やり」
そこまで話した星也はブラックコーヒーを飲む。ブラックコーヒーを満たす苦味など、苦味のうちに入らないみたいな表情で。それはそうなのかもしれないと、郁人は思った。
「だから、コーヒー飲んで眠れないくらいはなんでもないよ」
星也はそれまでとは打って変わって明るい声でそう郁人に告げた。
「眠れないときはどうしてる?」
郁人のそんな疑問に星也は少し考えてこたえる。
「そりゃもちろん勉強だよ。って言いたいけど、マンガとか本を読んだり、音楽を聴いたり、あとは配信の映画を観たり。いろいろだよ。なるべく余計なことを考えないようにできることをしてる」
そう言って寂しげに笑った星也に、郁人はなにも言えないまま。
「じゃあ、僕はこっちだから」
星也は曲がり角のところで郁人にそう告げ、自分の家の方にひとりで歩いて行った。このあいだの夜と同じように。
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